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東京地方裁判所 平成10年(ワ)12928号 判決

原告 株式会杜クオーク

右代表者代表取締役 木村進一

右訴訟代理人弁護士 三好徹

<外一〇名>

被告 株式会社富士銀行

右代表者代表取締役 山本惠朗

右訴訟代理人弁護士 守屋宏一

同 橋元祐之

被告 安田信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 井出忠義

右訴訟代理人弁護士 工藤舜達

同 大沢正一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  東京地方裁判所平成七年(ケ)第二三三五号及び平成七年(ケ)第五二三七号不動産競売事件について、平成一〇年六月一〇日作成された配当表の被告株式会社富士銀行の項のうち、配当実施額金七億五三一五万一五二二円を金七億三一七八万三五四三円と変更する。

二  東京地方裁判所平成七年(ケ)第二三三五号及び平成七年(ケ)第五二三七号不動産競売事件について、平成一〇年六月一〇日作成された配当表の被告安田信託銀行株式会社の項に関し、昭和六二年一二月二五日付抵当権いの項のうち配当実施額金一億八四五〇万四八八六円を金一億七九二七万〇二二〇円と変更し、同日付抵当権うの項のうち配当実施額金一億三九一七万三九四三円を金一億三五二二万五三八〇円と変更し、同日付抵当権えの項のうち配当実施額金七八九万八六四九円を金七六七万四五五三円と変更する。 三 東京地方裁判所平成七年(ケ)第二三三五号及び平成七年(ケ)第五二三七号不動産競売事件について、平成一〇年六月一〇日作成された配当表の原告の項のうち、配当実施額金一七九四万四九五七円を金四八七二万〇二六一円と変更する。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、併合された二つの不動産競売事件(後述の第一事件及び第二事件)において作成された配当表に関し、第一事件に固有の手続費用及び第二事件に固有の手続費用とされている地代代払金について第一事件及び第二事件の両事件に共通する手続費用として扱うべきであること、売却代金の配当に際して借地権の準共有持分割合を考慮すべきであること等を理由として配当表の変更を求める事案である。

二  前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1  承継前原告東京総合信用株式会社(以下においては、承継前原告をも便宜「原告」という。)は、平成一一年一〇月一日、日本総合信用株式会社に合併されたが、存続会社である日本総合信用株式会社は、同日、株式会社クオーク(原告)と商号変更した。

2  被告安田信託銀行株式会社(以下「被告安田信託銀行」という。)は、株式会社エムシージー(以下「エムシージー」という。なお、平成元年一一月一二日にされた商号変更前の商号は「三松建設株式会社」であるが、商号変更の前後を問わず、以下「エムシージー」と表記する。)所有に係る別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地を敷地の一部とする同目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)のエムシージーの共有持分につき、東京法務局昭和六二年一二月二五日受付第三三五三号により設定登記を経由した債権額九億円、債権額六億八七五〇万円及び債権額六九〇〇万円の各抵当権(後記抵当権い、抵当権う、抵当権え)に基づき、東京地方裁判所に競売を申し立てたところ、同地方裁判所において平成七年(ケ)第二三三五号事件(以下「第一事件」という。)として係属し、平成七年六月一九日競売開始決定がされた(甲第二号証の三、第二号証の五)。

3  被告株式会社富士銀行(以下「被告富士銀行」という。)は、本件土地及び本件建物のエムシージーの共有持分につき、東京法務局昭和六二年一二月二五日受付第三三五三号により債権額三一億円の抵当権(後記抵当権あ)設定登記を経由していた(甲第二号証の三、五)。

4  原告は、平成七年一二月一四日、本件建物の岸井静(以下「岸井」という。)の共有持分につき、東京法務局平成二年一一月八日受付第六九七号により設定登記を経由した債権額四八〇〇万円及び債権額五〇〇〇万円の各抵当権に基づき、東京地方裁判所に競売を申し立てたところ、同地方裁判所において平成七年(ケ)第五二三七号事件(以下「第二事件」という。)として係属し、平成七年一二月一八日競売開始決定がされた(甲第二号証の五)。

5  第一事件と第二事件は、平成九年四月一八日に併合され、平成一〇年三月二五日、売却許可決定がされ、のちに競売代金が納付された。

6  平成一〇年六月一〇日、配当期日が開かれ、東京地方裁判所により、別紙のとおり配当表(以下「本件配当表」という。)が作成され、本件配当表には、被告富士銀行に関し、昭和六二年一二月二五日付け(設定登記受付の意。以下同じ。)抵当権あ(以下「抵当権あ」という。)につき七億五三一五万一五二二円、被告安田信託銀行に関し、昭和六二年一二月二五日付け抵当権い(以下「抵当権い」という。)につき一億八四五〇万四八八六円、同日付け抵当権う(以下「抵当権う」という。)につき一億三九一七万三九四三円、同日付け抵当権え(以下「抵当権え」という。)につき七八九万八六四九円、原告に関し、一八七〇万八五五〇円及び一九五〇万七二六三円の配当実施額の記載がある(甲第一号証)。

なお、本件配当表においては、両事件共通の手続費用として四六八万九九六〇円が計上され、これが第一事件に四四七万八〇三八円、第二事件に二一万一九二二円と配分され、さらに、第一事件固有の手続費用として一億一七一万二九一〇円が、第二事件固有の手続費用として一七九三万二三一七円が計上されている。

7  右配当期日には、原告代理人弁護士藤川浩一が出頭し、被告らに対する配当実施額のうち、抵当権あについては二一三六万七九七九円、抵当権いについては五二三万四六六六円、抵当権うについては三九四万八五六三円、抵当権えについては二二万四〇九六円を配当するのが不当である旨異議を申し出た(甲第一三号証)。

三  争点

1  本件配当表において第一事件の手続費用及び第二事件の手続費用とされている地代代払金を両事件手続費用として扱うべきか。

2  売却代金の配当に際して借地権の準共有持分割合を考慮すべきか。

3  被告らが地代代払の割合に関する合意と異なる主張をすることが信義則に反するか。

四  争点に対する当事者の主張

1  争点1(本件配当表において第一事件の手続費用及び第二事件の手続費用とされている地代代払金を両事件手続費用として扱うべきか)について

(一) 原告の主張

(1) 地代代払は、借地権及び借地上の建物の存続のためにされるものであり、本件建物が物理的に一体でかつ本件建物の所有形態が専有部分によるものではなく建物全体が共有持分により所有されている以上、第一事件及び第二事件双方の維持のために不可欠な費用であると考えられ、両事件共通の費用として取り扱われるべきである。

(2) 借地権準共有持分権者の一方のみが地代の支払を怠った場合においても借地契約自体は地主との関係では借地権者二名を当事者とする一つの契約であり、その不払いは借地契約全体の解約理由となる以上、地代代払費用が建物各共有持分相互に借地権維持に貢献していることは明らかである。また、被告らの主張のとおりに考えた場合には、借地権準共有持分権者の一方のみが地代の支払を怠ったときは借地権の準共有者の一方との関係でのみ借地契約を解除できることにならないと不合理ということになるが、解除の不可分性の趣旨から準共有者の一部のみの関係で契約を解除することは許されないのであって、被告らの主張は理由がない。

(二) 被告らの主張

(1) 競売実務において、異なる不動産について別個に強制競売又は競売が申し立てられたのちに両事件が併合された場合、併合後に要した手続費用は物件全体の共益費用として全物件の原資から償還を受けるが、併合までに要した手続費用は、各事件の物件固有の原資のみから償還を受けるとの取扱いがされている。執行費用は同一手続内で同時に取り立てるべきものと規定している民事執行法一九四条、 四二条二項に基づき手続単位で執行費用の配分を行っている裁判所における執行実務の取扱いを前提として、併合後に要した手続費用は物件全体の共益費用といえるが、併合までに要した費用は各事件における各競売物件の換価手続に「必要な費用」(一九四条、四二条一項)であることが明らかであり、この実務の取扱いは妥当である。

執行裁判所が作成した本件の配当表において両事件共通費用とされた執行費用は、不動産競売事件手続費用計算書平成七年(ケ)第二三三五号(安田信託銀行株式会社分)記載の「14 不動産評価料」のうち補充評価料金二万円、「20 新聞紙等広告掲載料」、「21 売却の公告嘱託書・売却の日時の通知書(送)」、「22 売却の実施手数料」、「23 代金納付期限通知書(送)」、「27 審尋のための費用」、不動産競売事件手続費用計算書平成七年(ケ)第五二三七号(東京総合信用株式会社分)記載の「24 配当期日呼出状等(送)」であるが、これらはいずれも併合後に生じた費用である。地代代払許可申立てに係る申立費用、支払った地代等(以下「地代代払費用」という。)は、地代代払許可申立てが併合後に行われたものではなく(第一事件については平成九年三月二六日、第二事件については平成七年一二月二五日)、地代代払費用は競売物件である建物共有持分の価値を保全するために支出された費用であることから、当該建物共有持分の換価手続に「必要な費用」として同一手続内で償還を受けるべき費用であることが明らかであり、固有の費用であることは明白である。

(2) 原告の主張は、<1>競売対象建物が物理的に一体であるとしても、各事件の競売対象物件は民事執行法上「みなし不動産」として独立の不動産として扱われている建物共有持分であり(一八一条、四三条二項)、両事件における地代代払費用は独立した競売物件である建物共有持分の価値を保全するために支出されていることを看過している点、<2>地代代払費用を両事件共通費用と取り扱うならば地代の代払と全く無関係であることが明らかな第一事件における土地の売却代金についても執行費用として割付けがされ、地代代払費用の負担が及ぶことになり極めて不合理な結論となる点、<3>手続単位で執行費用の配分を行っている裁判所における執行実務の取扱いに背馳してまで地代代払費用のみ特別扱いをする法的根拠は何ら存在しない点において不合理である。

2  争点2(売却代金の配当に際して借地権の準共有持分割合を考慮すべきか)について

(一) 原告の主張

本件における借地権の設定状況等は、別紙計算書一のとおりであるが、以下のとおり、借地権付建物の売却代金の配当にあたっては、借地権の準共有持分割合を考慮すべきであるから、本件において競売対象となった岸井及びエムシージーの借地権比率は、それぞれ同計算書一2の「借地権比率<1>」、同計算書一3の「借地権比率<2>」のとおりとなり、これを前提とすると、本件における配当原資は別紙計算書二のとおりとなり、したがって、被告らに対する配当額は別紙計算書三の「配当表(東京総合信用)」欄記載のとおりとされるべきである。

(1) 借地権付建物に抵当権を設定する場合、その担保価値の算定にあたり、借地権価格が重要な判断要素とされることは融資実務上当然のことであり、執行法上も借地権は借地上の建物の評価額の大部分を占めることがほとんどであって、借地権が建物に「事実上付着する」との被告らの主張は担保権設定時の借地権評価の重要性を不当に軽視する主張である。借地権につき準共有持分がある場合、抵当権設定を受ける者としてはその準共有持分に応じて担保評価をするのであり、建物共有持分の変更により借地権に関する配当が変化することは、これら設定時における抵当権者の予測を裏切る結果となる。

(2) 抵当権者としては、建物が共有である以上、敷地の権利関係について登記簿の記載のみに頼ることなく、借地契約書の徴求等により調査すべきであるのは当然のことであり、建物登記の記載から借地権の準共有持分を推知できないとの事情は重視すべきでない。配当を受ける抵当権者が抵当権設定時に借地権の準共有持分につき当然に調査すべき立場の者である以上、被告らの主張は自らの調査不足を原告に転嫁するものである。

(3) 建物共有持分登記により借地権の準共有持分を定めるとすると、実際の準共有持分を超過して借地権に対する抵当権の効力が及ぶことになり、この超過部分は無権利の登記であることになるが、登記に公信力がない以上、このような超過部分について抵当権の効力を及ぼすことはできない。

(4) 借地権の準共有持分により影響を受けるのは、配当を受けるべき抵当権者であり、基本的にはその他の第三者に不測の損害を与えることはない。

(5) 競売後に借地権の準共有持分が変更された場合には、建物に対する差押の効力が従たる権利である借地権にも及んでいるから、この変更は競売手続に対し対抗できないし、競売前であっても抵当権設定登記の効力として同様に抵当権者等に対して対抗できないことになるのであって、抵当権設定時に借地権の準共有持分を確認さえすれば抵当権者が不測の損害を受けることはない。

(6) 借地上の建物登記を借地権の第三者対抗要件とした法の趣旨は、いわゆる底地取引により借地関係が覆されるのを防止し、建物保護を図ることを目的とするものであり、借地権の対抗要件自体いわゆる動的安全を保護する目的で創設されたのであるから、これを根拠に実態として公平な借地権の準共有持分割合による配当を否定する理由にはならない。

(7)建物の共有持分の割合と借地権の準共有持分割合が異なる場合、実質的には、建物価格につき借地権の割合に従って配当がされるのが公平というべきである。

(二) 被告らの主張

以下のとおり、原告の主張は理由がなく、執行裁判所による配当表は正当である。

(1) 被告らは、地代不払による賃貸借契約の解除を回避すべく、執行裁判所から平成九年三月二六日付地代代払許可決定を受けるまで平成七年一二月一一日から平成八年一〇月一五日までの間に合計一億〇〇〇九万九二六二円の金員を負担し、被告富士銀行は、債権計算書の提出にあたって地代代払許可を受ける前に負担した地代相当額七〇〇六万九四八三円を「求償権」として、被告富士銀行に対する配当金として付加されるべき債権として債権計算書に記載したが、結果として右求償権は配当対象とされなかった。すなわち、執行裁判所は、地代代払許可以後の代払地代相当額のみを共益費用として配当対象として認めたが、その限度での金額が執行対象となった建物持分権の担保価値の保全のために必要不可欠なものであると執行裁判所が格別に認めたからであり、逆にそれ以前の支払は、執行対象の建物持分権それ自体とは無関係である建物敷地に関する権利に関するものであり、建物持分権の担保価値を保全するために自らが負担すべきであると判断しているためと推測される。執行裁判所の右取扱いに照らしても、配当対象となるべきは保全された建物持分権そのものであり、当該建物の敷地の借地権の準共有持分権は、建物の存立が確保されるものであることが確認されれば足り、執行裁判所は配当表の作成にあたり敷地の借地権の準共有持分割合は格別判断の前提として考慮していないと思われる。

(2) 執行裁判所は、競売対象物件をあくまでも建物持分権そのものであるとみたのであり、もしその敷地の賃借権の準共有持分権の割合ましてや登記上公示すらされていない敷地の賃借権まで配当に当たって考慮すべきであるとすれば執行手続における法的安定性を害するという判断があって本件配当表を作成したと判断され、そうである以上、原告及び被告らは共にその結果である配当表に従った配当を尊重すべきである。

(3) 建物価格(最低売却価額)の算定にあたっては、建物所有権の従たる権利たる借地権について建物価格の評価に当たり既に十分に斟酌されているのであるから、借地権価格が無視されているわけではない。

(4) 建物の持分の競売にあたっては、担保権設定者(持分権利者)が借地権の準共有持分割合については対抗要件たる登記を具備していない以上は、その権利割合を第三者に対して対抗できないから、公平な配当を期待する第三者たる債権者に対する配当金額の按分は、あくまでも建物所有権の共有持分割合に基づいて行われるべきである。

原告と被告らは、おのおの抵当権に基づき建物共有持分割合を超える割合の借地権準共有持分割合について、両立しえない物的支配(抵当物件の交換価値に対する物的支配)を相争う関係にあることから対抗関係に立つ。抵当権の設定行為も物権変動の一態様である以上、建物共有持分に対する抵当権について建物共有持分を超える割合の借地権準共有持分割合をもって抵当権の優先弁済効を主張するには第三者に対する対抗要件である登記を具備する必要があるのは当然である。

抵当権はあくまでも建物共有持分自体に設定されている上、そもそも借地権の準共通持分割合は賃貸借契約当事者間の債権的合意にすぎず、その登記がされていない以上、第三者に対する関係では、建物共有持分割合に従った借地権の準共有持分割合について抵当権が及んでいるにすぎない。したがって、第三者に対する関係では、当初から建物共有持分割合に従った借地権準共有持分について抵当権が及んでいるにすぎず、実体と登記に乖離はない。

(5) 借地権付建物に対する抵当権が実行され競売される場合、借地権そのものが直接売却の対象とされるわけではない。借地権は建物の従たる権利(民法八七条、 三七〇条)として抵当権の効力が及ぶことから、建物の売却に際し事実上借地権も付着していくだけなのであり、登記されていない借地権割合に独立の存在意義を認めて配当の基準とすることはできない。借地権付建物の取引において借地権の価格が建物自体の価格を凌駕してはるかに高額である場合も多く、不動産の評価上借地権が重要であることは事実であるが、それと借地権と建物とを別個独立に評価するか否かは別問題である。

(6) 第三者に対する対抗要件である登記により公示されていない約定の借地権の準共有割合に独立の存在意義を認めて配当表の基準とする原告の主張は、競売物件に関わる利害関係人たる第三者に不測の損害を与え、執行手続の安定を阻害する不当な主張である。

借地権の具体的な準共有持分割合は、借地上の建物の登記からは明らかでないこと、抵当権はあくまでも建物共有持分自体を対象に設定されるのであり、競売においても借地権自体が売却の対象となるわけではないこと、建物共有持分割合と借地権の準共有持分割合が厳密に一致しなくても、現実に建物共有者が借地権を有してさえいれば、建物の存立及び処分に全く支障はないこと、執行実務において建物共有持分割合と借地権の準共有持分割合とが異なる場合に、借地権の準共有持分割合に従って配当がされた先例はないことなどから、建物共有持分に抵当権を設定する場合、建物共有持分割合をもって借地権の準共有持分割合を判断して当該物件の担保価値を評価するのが銀行の融資実務における通常の評価方法である。

仮に事前調査によって、建物の共有持分割合と借地権の準共有持分割合との間に齟齬があることが判明したとしても、未登記の借地権については担保権を設定したことを第三者に公示することができないため、あくまでも建物共有持分割合に応じた担保権の効力を第三者に対抗することを企図して担保権を設定するのであるから、執行、配当手続において建物の共有持分割合に応じて建物価格を配分することはむしろ担保権利者間の配当の公平にも寄与する。

借地権の準共有持分割合の登記がされていない以上、抵当権者その他の債権者の中には持分割合を知らず、建物共通持分割合に従った配当を予期している者もおり、このような場合に借地権の準共有持分割合で配当がされるならば、右債権者らに不測の損害を与える。

(7) 地上権の登記又は賃借権の登記により借地権の準共有持分を公示することも可能なのであるから、借地権の準共有持分割合の調査を要求する原告の主張は、自らの登記懈怠を被告らに転嫁する不当な主張である。

(8) 登記により公示されていない借地権の準共有割合をもって配当額を決するのでは、その都度事実関係の調査が必要となり、迅速かつ公平に配当をすることが要求される不動産競売手続の安定性を阻害する。

(9) 執行手続では法的安定性(静的安全)が重視されなければならないから、形式的、客観的に公示されている権利関係に基づき配当を行うべきことは、当然の要請である。

従来から執行裁判所が画一的に実行してきた本件類似事案の際の配当方法を変更すれば、手続の公平、安定性、継続性を阻害する。

(10) 借地権の準共有持分に対する抵当権設定を公示する手段が格段整備されていないため第三者に対する対抗要件を具備することができないので、建物の共有持分権に抵当権を設定した後に借地権の準共有持分割合が変更され、それを前提として第三者が借地権に関する利害関係を有するに至ったとしても、直接これに対抗し得る手段を持ち得ない。

(11) 「建物の共有持分の割合と借地権の準共有持分割合が異なる場合、実質的には、建物価格につき借地権の割合に従って配当がされるのが公平である。」という原告の主張は、常に借地権価格が建物価格を上回ることを前提とする主張であると思われる。しかし、土地価格と建物価格はあくまでも個別の物件ごとにその比重が異なり、借地権割合は全国的には地方により大きな乖離がある。

3  争点3(被告らが地代代払の割合に関する合意と異なる主張をすることが信義則に反するか)について

(一) 原告の主張

被告らは原告との間で八番土地についての借地権の準共有持分を岸井が五分の一、エムシージーが五分の四と確認し、これに基づき原告及び被告らは地代の代払を行った。地代代払の割合は、借地権の準共有持分の存在が前提となっているのであって、右支払は準共有持分割合の承認にほかならない。配当に関し準共有持分に従うとの明確な合意がないとしても、信義則は先行行為と矛盾する行為の禁止を一内容とするものであり、本件はまさに信義則の典型的な適用場面というべきである。

被告らが右合意と異なる借地権の準共有持分を主張することは信義則に反する。

(二) 被告らの主張

地代代払は、競売物件たる建物に係る賃貸借契約で定められた賃料を差押債権者が代わりに支払う制度である。本件では、借地権の準共有者である岸井とエムシージーが、一対四の割合で賃料の支払を行っていたことから、その割合による代払がされたにすぎないのであって、配当について借地権の準共有持分割合に従う旨の合意をしたわけではない。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲第一号証、第五号証、第七ないし第一〇号証)と弁論の全趣旨に前記前提事実を総合すれば、以下の事実が認められる。

1(一)  安田不動産株式会社(以下「安田不動産」という。)は、昭和六〇年八月五日、エムシージー及び岸井に対し、東京都中央区築地四丁目二番八の土地(以下「八番土地」という。以下同様に、同番の三、四の各土地を「三番土地」、「四番土地」という。)を、賃貸借期間昭和六〇年八月一日から昭和八九年一一月一日まで、賃料一か月三五万九一九〇円の約定で賃貸した。

エムシージーと岸井は、同日、八番土地の所有者である安田不動産に対する地代の支払につきエムシージーが五分の四、岸井が五分の一を負担する旨合意するとともに、八番土地の賃借権の準共有割合を、エムシージーが五分の四、岸井が五分の一と合意した。

(二)  安田不動産は、昭和六一年九月一二日、エムシージー及び渡辺寿美こと渡邊壽美(以下「渡辺」という。)に対し、四番土地を、賃貸借期間昭和六一年九月一日から昭和九〇年六月一日まで、賃料一か月一四万八一六〇円の約定で賃貸した。

2  平成七年六月一九日に競売開始決定がされたときの本件建物の共有持分割合は、エムシージーが一万分の九二九五、岸井が一万分の四七〇、渡辺が一万分の二三五であった。

そして、当時、本件建物の敷地のうち、本件土地の所有権及び三番土地の賃借権はエムシージーに属し、四番土地の賃借権は二分の一ずつの割合でエムシージー及び渡辺の準共有に属し、八番土地の賃借権は前述のとおりエムシージー五分の四、岸井五分の一の準共有に属していたが、これらのうち賃借権は、いずれも登記されていなかった。

3  原告は、平成七年一二月二五日、第二事件に関し東京地方裁判所に対して地代代払許可を申し立て、平成八年一月一八日、平成七年三月分以降同年一二月分までの滞納料金(四四八万七八五二円)及び平成八年一月分以降売却許可決定に基づく代金納付の日まで地代(月額四七万二六二四円)についての代払許可決定がされ、その決定に基づき原告により地代の代払がされた。

4  被告安田信託銀行は、平成九年三月二六日、第一事件に関し東京地方裁判所に対して地代代払許可を申し立て、同日、平成八年一〇月分以降売却許可決定に基づく代金納付の日まで地代(月額五四一万二〇五六円)についての代払許可決定がされ、その決定に基づき被告安田信託銀行により地代の代払がされた。

5  本件配当表において、両事件手続費用として四六八万九九六〇円が計上され、第一事件について四四七万八〇三八円、第二事件について二一万一九二二円が配分され、第一事件固有の手続費用として一億〇一七一万二九一〇円が、第二事件固有の手続費用として一七九三万二三一七円が計上された。

両事件共通費用とされた執行費用は、不動産競売事件手続費用計算書平成七年(ケ)第二三三五号(安田信託銀行株式会社分)記載の「14 不動産評価料」のうち補充評価料金二万円、「20 新聞紙等広告掲載料」、「21 売却の公告嘱託書・売却の日時の通知書(送)」、「22 売却の実施手数料」、「23 代金納付期限通知書(送)」、「27 審尋のための費用」、不動産競売事件手続費用計算書平成七年(ケ)第五二三七号(東京総合信用株式会社分)記載の「24 配当期日呼出状等(送)」(以上のうち「(送)」は送付費用を示す。)であるが、これらはいずれも第一事件と第二事件の併合後に生じた費用である。

二  争点1(本件配当表において第一事件の手続費用及び第二事件の手続費用とされている地代代払金を両事件手続費用として扱うべきか)について検討する。

1  前記一の認定事実と前記前提事実によれば、本件においては、本件土地及びそれを敷地の一部とする本件建物の共有持分を対象とする不動産競売事件である第一事件と本件建物のうち別の共有者に属する共有持分を対象とする不動産競売事件である第二事件とが併合され、一括してその対象物が売却されたこと、第一事件については、平成九年三月二六日に地代代払許可が申し立てられ、同日、平成八年一〇月分以降の地代(月額五四一万二〇五六円)についての代払許可決定がされており、第二事件については、平成七年一二月二五日に地代代払許可が申し立てられ、平成八年一月一八日、それまでの滞納料金と平成八年一月分以降の地代(月額四七万二六二四円)についての代払許可決定がされ、平成九年四月一八日に第一事件と第二事件が併合されたことが明らかにされている。

ところで、民事執行法一八一条、 四三条二項によれば、建物の共有持分は民事執行法上不動産とみなされるから、本件における第一事件と第二事件の競売対象物件は当然に別個というべきである。そして、地代代払金の支払は、執行裁判所の許可により認められるものであるから、本件においても、それぞれの事件ごとに原告及び被告安田信託銀行の申立てに基づき執行裁判所により地代の代払が許可されている。したがって、第一事件に関する地代代払金は、第一事件の不動産競売の対象である建物共有持分及びその存立の基盤となっている賃借権を保全するために支払われたものであり、第二事件に関する地代代払金は、第二事件の不動産競売の対象である建物共有持分及びその存立の基盤となっている賃借権を保全するために支払われたことが明らかである。そうすると、地代代払金は、裁判所により許可された事件に関して競売の対象となっている不動産についての費用と解するのが相当である。この理は、第一事件と第二事件が併合された後も、変わりがないというべきである。

もっとも、本件において地代代払金は、併合後もそれぞれの事件にどれだけの割合で寄与しているかが明らかであるから、それぞれの事件の手続費用としてそれぞれの配当額から差し引いたからといって特に支障もないということができる。

2  そして、前記一の認定事実によれば、本件の配当手続において、両事件手続費用として四六八万九九六〇円が計上されていることが明らかである。

ところで、これらの費用は、第一事件と第二事件の両事件が併合された後に生じた費用であることも明らかにされているから、併合後の競売手続を進めていく上で両事件に役立っている必要不可欠の費用であるとみることができ、両事件の配当額から按分して差し引くのが公平の見地から相当であると考えられる。また、実際に複数の不動産競売事件が併合された後に発生した費用については、どの不動産競売事件にどれだけの割合で寄与したかが不明であるのが通常であるから、特段の事情がない限り、その配当額の割合に応じて寄与したものと考えるのが最も公平に資するが、本件においてこの特段の事情があることを窺わせる資料は見当たらない。

そうすると、これらの費用が両事件手続費用とされ、第一事件と第二事件の各配当額から案分して差し引かれたのは、相当であるということができ、前記1の取扱いとの間で何らかの食違いがあるということはできない。

3  したがって、地代代払金は、地代代払が許可された事件における手続費用として扱うのが相当であり、地代代払金を第一事件及び第二事件のそれぞれの固有の手続費用として計上した本件配当表は正当である。

三  争点2(売却代金の配当に際して借地権の準共有持分割合を考慮すべきか)について検討する。

1  共有に属する不動産の別の共有持分に設定された各抵当権に基づいてし立てられた不動産競売事件が併合されて売却が行われた場合において双方に順位の優劣関係がないときは、売却代金が各共有持分の割合に応じて各申立債権者に配当されるべきことは、当然の事理に属する。

もっとも、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、その建物所有権に付随し、これと一体となって一つの財産的価値を形成していることから、建物に抵当権が設定されたときは、登記されていない敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されると解され、土地の賃借人が当該土地上の建物に設定した抵当権の効力は、その賃借人との関係においては、特段の事情のない限り、当該土地の賃借権に及ぶと解される(最高裁判所昭和四〇年五月四日第三小法廷判決・民集一九巻四号八一一頁参照)。借地上の建物が複数人によって共有されている場合においても、別異に解する理由はないから、特定の建物共有持分に設定された抵当権は、同様に、その抵当権設定者が有する登記されていない敷地賃借権の範囲に及ぶと解するのが相当である。そして、土地賃貸借契約が複数の賃借人との間で締結された場合には、土地賃借権は賃借人らの間で準共有の状態となる。このような場合において当該賃借人間に賃借権の準共有割合に関する合意が存在しているときは、その合意により割合が決定される。

本件においては、前記認定のとおり、三番土地の借地権はエムシージーに属し、八番土地の借地権は、エムシージー五分の四、岸井五分の一の各割合により準共有され、四番土地の借地権は、エムシージー、渡辺各二分の一の割合により準共有されていたことが明らかにされている。その結果、本件では、本件建物の共有割合と敷地の借地権の準共有割合との間に食違いが生じているため、売却代金の配分にあたり借地権の準共有割合を考慮に入れないでよいかどうかの問題が発生する。

2  そこで検討してみると、元々、抵当権設定者は、自分に帰属する不動産の処分権に基づき不動産に抵当権を設定するのであり、その効力は、その不動産とこれに一体を成す物に及ぶ(民法三七〇条)から、自らに属しない物にその効力を及ぼすことはできない筋合いである。

しかしながら、前記1において検討した結果によれば、複数の建物共有者により設定された抵当権に基づく不動産競売事件が併合されている場合には、買受人は各抵当権設定者が有した範囲において敷地賃借権の準共有持分を取得するということができるが、他方で、借地権付建物に対する競売事件においても、売却の対象とされるのは建物そのものであり、借地権は、建物に設定された抵当権の効力が及ぶ結果、建物の売却とともに建物に付着してその準共有持分が買受人に移転されるにすぎないのであるから、売却代金の配当は、専ら競売の根拠とされた抵当権に係る建物の共有持分に応じてされるべきであると解するのが相当である。 実質的にも、ここで議論している借地権の準共有割合は、借地権準共有者間の合意により決定されたものでしかなく、登記により公示されていないのであるから、そのような借地権の準共有割合を基準に配当することを認めることは、不動産競売手続に余分な調査作業を強いることとなり、競売の進行の迅速、公平さを失わせる上、競売事件に関与する利害関係人に不測の損害をもたらすおそれを招き、競売の安定性を害することにつながるばかりか、延いては共有に属する借地権付建物の担保化を阻害する結果を招来することは、見やすい道理である。

したがって、抵当権が建物の土地賃借権に及ぶと解しつつも、本件配当に際しては土地賃借権の準共有割合は考慮に入れないで取り扱うのが相当である。

ちなみに、甲第一一号証によれば、本件での評価人作成の評価書及び補充評価書においても、本件の競売不動産の評価額の算定にあたって土地の賃借権の準共有割合は一切考慮されておらず、建物の共有持分割合が考慮されているにすぎないことが認められ、本件の執行裁判所における競売実務の過程においても、以上と同様の考え方が採用されていることが窺われる。

3  以上によれば、本件において、配当手続において、価額の配分に際し借地権の準共有持分割合を考慮すべきでないから、これと同一の見解に基づいて執行裁判所により作成された配当表は正当というべきである。

四  争点3(被告らが地代代払の割合に関する合意と異なる主張をすることが信義則に反するか)について検討する。

1  甲第七号証によれば、原告と被告らとは本件における地代代払に関し当面の間の負担割合を合意したことが認められるが、同証を精査しても、その負担割合合意の趣旨が借地権保全のための暫定処置を超えて配当手続にまで及ぼすことにあったとまでは認めることはできず、他に争点3の原告の主張事実を認めるべき証拠はない。

2  したがって、被告らが右の合意割合と異なる主張をしたことをとらえて信義則に反するという原告の主張は、失当である。

五  以上によれば、原告の請求は理由がないので、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 成田喜達 裁判官 高宮健二 裁判官 阿閉正則)

物件目録等<省略>

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